百年法

「百年法」<全二冊>山田宗樹(角川書店)

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生存制限法(通称:百年法)「不老化処置を受けた国民は、処置後百年を以て、生存権をはじめとする基本的人権は、これを全て放棄しなければならない。」この話は未来版、姥捨て山物語である。
前世紀の戦争(1945)で敗北した日本共和国は、朝鮮半島での不穏な動きに対し、日本共和国での労働力確保の観点から、アメリカ政府の要請に応じて不老化処置をスタートさせ、百年法を制定した。
2048年、不老化処置を施した国民は、老いることなく、事故や病死以外で死ぬことはなくなった。しかし、この法律は100年後、施行直前になって国民投票により凍結する。内務官僚としてこの法の施行を準備してきた遊佐は新時代党党首、牛島の元へ走る。社会不安に乗じた総選挙で牛島は大統領、遊佐は首相に就任する。5年後に凍結が解除され、矢継ぎ早の憲法改正で巨大な権限を持った大統領の独裁政治が始まった。
2076年、日本共和国は経済的・倫理的に停滞していた。牛島独裁政権は、その改革期には、ある程度力を発揮したが数十年たつと質が低下し淀み始めていた。外には百年法拒否グループのコロニー、政権内部では権力闘争を抱え、運命の2098年を迎える。

人が永遠の生を得たとき、社会はどのような問題を抱えるか?そして行き着く先には何があるのか?小説という形で一つの仮説を立てたのが本書である。家族・結婚観が根本的に変化し、外見は自分と同じ年齢の母をTC(TCとは100年を過ぎた人が、法に基づき安楽死する装置である)に送る。労働形態が大きく変わり、一種の階級が出現する。人口減は緩やかに、その結果、社会の中に受け皿がなくなり、失業率が増加する、というものである。ちょっと違和感があるのは、社会現象としてはなるほどと思わせる。しかし近未来において地球の人口が増え続けるとしたら、国家のあり方、政治・経済観は決定的に変わらざるを得ないだろう。限られた地球というパイの中で、人類はどのように生きるべきか?高い倫理観がなければ破滅だろう。この小説は、ここのところが弱い。国際関係と倫理問題。人類の一番の弱みか。
さて、あの世とはどのような所なのか?昨年、躾の一環として地獄絵本がブームになった。恐怖心をあおって、いい子になりなさいという発想はいただけないが、地獄については、桂枝雀の「地獄八景亡者戯」にヒントがある(シャレです)。90分もかかる落語であるがとても面白い。特に後半が絶品である。地獄・天国もこのような所なら、死の恐怖は安らぐかもしれない。また、地獄・・・の短縮版とでもいうべき「茶漬けえんま」もおすすめである。

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