桜ほうさら

「桜ほうさら」宮部みゆき(PHP研究所)

housara 正月にTVで放送されたのでドラマを見た人も多いと思う。「桜ほうさら」は宮部の造語で語源は本書の中でも明らかにしているように、「ささらほうさら」という方言である。甲州弁で、めちゃくちゃ悪いことが重なる状態を言うのだそうだ。これに桜の花のイメージを重ねたものである。桜は日本人が好きな花だ、何しろ天気予報の中で桜予報もする国なのである。そしてこの花は希望である。絶望の中に一筋の希望を見出す、これが本書の主題かもしれない。
さてあらすじであるが、江戸に近い某藩の小役人、古橋宗左右衛門の次男である古橋笙之介が主人公である。彼は剣は弱いが学問は得意な若者である。ある日、父が賄賂を受け取った疑惑をかけられる。その証拠となったのは、父直筆(?)の証文であった。父は書いた覚えはないが間違いなく自分の手跡だという。やがて彼は切腹し家族はバラバラになる。笙之介は江戸に出て密命をうけ、父の汚名を晴らすべく活動を開始する。
厳しい話ではあるが、笙之介を取り巻く人々の温かい思いや心温まる小話をはさみ最終の解決篇に向かう。決して謎解きでもサスペンスでもなく、人があることに区切りをつけ新たな道を歩こうとする青春物語である。